同窓会
ボクの名前を田中(仮名)としてお送りする。
天下の芋高校の同窓会が久しぶりに開催された。僕の高校にはAからGだかHくらいまでクラスがあって、それぞれのクラスごとの同窓会はあったかもしれないが、高校の学年全体での同窓会はおそらく初めてである。
1クラス40人程度なので、単純計算で280人くらい来るのではないかと予想された参加者人数はなんと50人。
しかし会場も同窓会実行委員の「まあどうせ来ない奴がほとんどだろう」という目録通りの50人がちょっと広々使える程度のシャレた店を予約してあり、なんだかなと思うとこである。
受付を終え中に入ると早速びっくり、みんな男なのである。そう、我が高校は男子校。
仲が良かったやつもいれば、
「お前とは一度も話してないぞ」ってやつもいれば
「お前とは二度くらい話したぞ」ってやつもいる。
少し仲が良かった友人との距離感も、久しぶりすぎて掴めない。
しかし同窓会は楽しいもので、
懐かしい先生と
「そういえば半年で辞めた女の先生、僕が偶然拾ったエロ本の"ハメ撮られ素人枠"にそっくりさんが出てて学年中に話題になりましたよね」と花が咲いたり、
久しぶりの友人と
「え!?あいつが盗難犯だったの!?」
と突然の暴露大会が始まったりとナカナカに楽しかったのものである。
そんな感じでタジタジと3時間の会をやり過ごした。
その帰り道のことである。
店の外でガヤガヤと余韻に浸っていると、話しかけてきた男がいた。
多分、高校生時代に2,3回程度話したことのある程度で、名前を山本としよう。もちろん仮名だ。そいつは同窓会の前半の90分、特にだれと話すこともなく黙々とビュッフェ形式のソーセージを頬張っていたことは観察済みだった。
山本「おお!ひさしぶり!げんき!?」
ボク(田中)「おお!(確かこいつの名前は山本)げんきげんき!......」
山本「...................]
ボク(田中)「...あ、いま何してんの?」
山本「えっとねー、手話」
ボク(田中)「ほえー!手話!....手話ってぶっちゃけ適当?」
山本「ああ、なんかダジャレみたいでね、いろいろあるよ。"草生えた"とかほら、こう」
そういって山本は、じゃんけんのパーを両手でつくり、ボクに手の甲を見せ上下に揺らして見せた。
なるほどこれが、草。
確かに手話はダジャレであり、適当なところがあるけど理にかなっている。とても興味深かった。
そんな山本とも15分くらい近況報告をしあい、心なしか高校時代よりも仲良くなった気がしたが、事件はこの後に起きた。
山本「いやー、ミチルっちと久しぶりに話せて良かったわ〜」
ボク(田中)「.....」
何を言っているのだろうか山本は。
何を隠そうボクは"田中"であり、断じてミチルっちではないのである。
ちなみにミチルっちは、体型はボクとそっくりな人間で、中学二年生の頃にはとても仲良が良かった。仲良し三人組として当時は活動しており、三人でディズニーランドに行く約束をしたものの、ミチルっちともう一人が前日に喧嘩をして、結局ボクとミチルっちだけでディズニーランドに行ったのは良い思い出である。
今思えば、中学二年生の割にはムサ苦しい男二人でディズニーとは滑稽である。
さて、そんなミチルっちに間違われることは良いのだが、
さっきまであんなに意思疎通していた山本が、まさかボクのことをミチルっちだと思って話していたということになんとなくショックを受けた。
しかし、山本くんの夢は壊してはならない。ここで改めて「ワイは田中やで」とタネあかしをしたとこで、せっかく積み上げて15分の会話時間が振り出しにもどるだけで、
誰も徳をしないのである。
ボク(田中)「そうだね!僕も山本と話せて良かったわ〜」
僕はその日、ミチルっちとして生きた。