バイト先がマルチ商法の巣窟だった
街中で勇気を出してあかの他人に"アルバイトをしたことはあるか"と問いかければまあまあな割合で"YES"と答えるであろうアルバイトのお話である。
大学の入学したてのホヤホヤシャイボーイだった頃のから3年間、アルバイトをしていた。そのアルバイトはいい感じの区切りと見切りをつけ、辞めた。
そしてしばらく親の脛を「コレでもか!」とカジリ続けた結果、
そろそろ働くかなということでアルバイトを探した。
その時に出会い、わずか2ヶ月で辞めたアルバイトのお話が今回のお話の舞台、そして主役はなんといっても"欠陥人間オーナーのKさんである"
バイトでもするかと、ネットサーフィンをいていたところ偶然にも家の近くに時給1500円かつ飲食店のオープニングスタッフとしての求人があったので応募をした次第である。
初の飲食店ということもあり、楽しみでもあり不安だったのだが、人生の機会として良いと思った。そう、当時の成長意欲バリバリの僕には敵なんていなかったのである。
はて、初対面で喋ったKさんは割とフレンドリーだった。また、稚拙ながら店のチラシやメニューを作れるということもあり即採用をもらった。
一応、僕の職種は厨房を司るキッチンである。小学校一年生のころ、ホテルのシェフが目の前でオムレツを作ってくれるサービスを受けてから、「一度はコックさんになるぞまじ卍」と考えていたマセガキだった僕の夢が少しだけかなったのである。
しかしキッチンとして未熟なこともあり、またオープニングということもありマニュアルもなく、理不尽ではあるがビシバシとオーナーのKさんの指導を受け日々業務をこなせるようになっていく。
しかしこのオーナーK、理不尽の振り方が下手であり、
そんなオーナーKの理不尽かつ横暴な態度に耐えることができず、最初に18人いた学生バイトくん達は気づいたら4人である。
K「こんなことについていけないんじゃあみんな社会に出ていっても通用しないよおねえ」
僕「そうですねえ(レタストントン)」
と、ハンバーガーを音速で6個作ってお客さんにイソイソと提供していた僕は、
「確かに、彼の頭の中を推測して行動を起こさなければいけないという理不尽さはあるが、よくよく自責の念でもって考えてみればコッチが悪いのではないか」と、精神がいい感じに麻痺して順応し、生き残っていたのである。
まあ良い、僕的プロファイリングをするのであれば要するにKという人間は、 ”頭はまあまあ良いが人間性に欠け、きっと過去に他人に認めてもらえないという過去があるが故に自分よりも弱い者にはひたすらにマウントをとってくる、中学校二年生がそのまま35歳になっちゃった社会不適合でなんやかんや可愛げのある人間” なのである。
しかし僕はそんなオーナーKとうまくやりくりし、オーナーKの理不尽も華麗に受け流し他のバイトや、はたまたKでさえも笑いの渦に巻き込まれるほどに立ち回っていた。
業務にも慣れ、kさんがいない間は厨房にある冷凍食品を勝手に使って創作料理を食べたりしたのものだった。
そんなこんなで、仕事にも慣れ、気づけばKとの距離感は近づいていく。
バイト後に飲みにいくことも増え、なんとなくKという人間像が見えてくる。
そんなある日、Kにこんなことを言われるのである。
K「ねえ、良い話してあげよっか。ニャオウェイ(仮名)って知ってる?」
僕「えー知らないです〜(は!、、これ有名なマルチ商法では)」
K「えとね、これはね、こんなコミュニティがあってね、こうやってね、儲けるんだよ」
と、軽快に説明を始めたK
して欲しい。
僕「へーそうなんですね!(ああ、、超巨大で絶滅危惧種的なマルチ集団でないか、、)」
人が良さそうに振舞っていた僕はマルチの小鼠にするにはうってつけなのであった。
K「ほら、うちでバイトしてるあの子とか、よく団体できてくれる常連さんとかもニャオウェイなんだよお」
僕「そうなんですか!それは仲間がたくさんいて良いですね!」
なんと僕のバイト先はマルチ商法の巣窟になっていたのだ。
マルチ商法自体は、本当によくできたビジネスモデルであるが、、、、とちょっと流され気味にはなるが、
いややっぱりなんか怖いそりゃそうだ。
そう、とても怖いバイト先だったのである。
丁重にお断りをしようと考えた僕は、ひとまずバイトの同期の人に相談するわけである。「Kさん、マルチだった、、」と
そうするとバイトに同期ちゃんは「この店がマルチの巣窟なのは知ってた。けど、といつめたらKさんはマルチなんてやってないよって言ってたよ」とのこと。
なんとKさんは、それがマルチ商法で立派な怖い行為であるという認知をした上で、ボクちゃんを騙そうとしていたのである。
なんと、自分のやっている行為に自信を持ってオススメしてくるタイプかとそんなことはない。そう、Kさんもマルチから抜け出せなくなり、自分用のネズミを確保するのに必死だったのである。
そんな気持ちはお察しするが、少し悲しくなるとともにバイトを辞めることを決意した。
心からニャオウェイを信じているのであれば問題はない。まあ万事オーケーで話を聞いてやらんこともないのだが。
Kさんからマルチのお誘いを受けた二時間後に、
「Kさんは色々と尊敬はしていましたが、人を平気で騙せる人間だったということはなんだか残念です。辞めます」
と、颯爽とエプロンをおき、店を後にしたのである。
覚えたのは皿洗いの大切さと、肉の焼き方と、逃げることも大切ということであった。
同窓会
ボクの名前を田中(仮名)としてお送りする。
天下の芋高校の同窓会が久しぶりに開催された。僕の高校にはAからGだかHくらいまでクラスがあって、それぞれのクラスごとの同窓会はあったかもしれないが、高校の学年全体での同窓会はおそらく初めてである。
1クラス40人程度なので、単純計算で280人くらい来るのではないかと予想された参加者人数はなんと50人。
しかし会場も同窓会実行委員の「まあどうせ来ない奴がほとんどだろう」という目録通りの50人がちょっと広々使える程度のシャレた店を予約してあり、なんだかなと思うとこである。
受付を終え中に入ると早速びっくり、みんな男なのである。そう、我が高校は男子校。
仲が良かったやつもいれば、
「お前とは一度も話してないぞ」ってやつもいれば
「お前とは二度くらい話したぞ」ってやつもいる。
少し仲が良かった友人との距離感も、久しぶりすぎて掴めない。
しかし同窓会は楽しいもので、
懐かしい先生と
「そういえば半年で辞めた女の先生、僕が偶然拾ったエロ本の"ハメ撮られ素人枠"にそっくりさんが出てて学年中に話題になりましたよね」と花が咲いたり、
久しぶりの友人と
「え!?あいつが盗難犯だったの!?」
と突然の暴露大会が始まったりとナカナカに楽しかったのものである。
そんな感じでタジタジと3時間の会をやり過ごした。
その帰り道のことである。
店の外でガヤガヤと余韻に浸っていると、話しかけてきた男がいた。
多分、高校生時代に2,3回程度話したことのある程度で、名前を山本としよう。もちろん仮名だ。そいつは同窓会の前半の90分、特にだれと話すこともなく黙々とビュッフェ形式のソーセージを頬張っていたことは観察済みだった。
山本「おお!ひさしぶり!げんき!?」
ボク(田中)「おお!(確かこいつの名前は山本)げんきげんき!......」
山本「...................]
ボク(田中)「...あ、いま何してんの?」
山本「えっとねー、手話」
ボク(田中)「ほえー!手話!....手話ってぶっちゃけ適当?」
山本「ああ、なんかダジャレみたいでね、いろいろあるよ。"草生えた"とかほら、こう」
そういって山本は、じゃんけんのパーを両手でつくり、ボクに手の甲を見せ上下に揺らして見せた。
なるほどこれが、草。
確かに手話はダジャレであり、適当なところがあるけど理にかなっている。とても興味深かった。
そんな山本とも15分くらい近況報告をしあい、心なしか高校時代よりも仲良くなった気がしたが、事件はこの後に起きた。
山本「いやー、ミチルっちと久しぶりに話せて良かったわ〜」
ボク(田中)「.....」
何を言っているのだろうか山本は。
何を隠そうボクは"田中"であり、断じてミチルっちではないのである。
ちなみにミチルっちは、体型はボクとそっくりな人間で、中学二年生の頃にはとても仲良が良かった。仲良し三人組として当時は活動しており、三人でディズニーランドに行く約束をしたものの、ミチルっちともう一人が前日に喧嘩をして、結局ボクとミチルっちだけでディズニーランドに行ったのは良い思い出である。
今思えば、中学二年生の割にはムサ苦しい男二人でディズニーとは滑稽である。
さて、そんなミチルっちに間違われることは良いのだが、
さっきまであんなに意思疎通していた山本が、まさかボクのことをミチルっちだと思って話していたということになんとなくショックを受けた。
しかし、山本くんの夢は壊してはならない。ここで改めて「ワイは田中やで」とタネあかしをしたとこで、せっかく積み上げて15分の会話時間が振り出しにもどるだけで、
誰も徳をしないのである。
ボク(田中)「そうだね!僕も山本と話せて良かったわ〜」
僕はその日、ミチルっちとして生きた。